外壁劣化とピンネット工法の理論について

外壁性能と劣化因子

外壁の必要性能

外壁は厳しい自然環境にさらされている。外壁に求められる性能には、防水性、耐候性、透湿性、防汚性、中性化抑制、剥落安全性などがある。

デファレンシャルムーブメント

外壁は、多種多様な素材で構成されており、線膨張係数の異なる各部材が、温湿度変化の影響を受けて脆弱部に蓄積した疲労はストレスとして解放され、浮きやひび割れとなって現れる。

 

外壁の主な劣化現象

モルタル層の浮き

下地との界面、モルタル層間の剥離は浮きとして現れる。浮き界面はセメント硬化体の不純物や接着強度の低下、過湿状態(ひび割れのUカットで水が出ることもある)などで脆弱化している。
目視できない脆弱な浮き界面では接着は困難と思われる。たとえ一時的に接着しても、外壁構成材の異なる動きが起これば、再剥離は避けられない。

ひび割れ

セメント硬化体のひび割れ発生要因は、多種多様でひび割れ幅は温冷乾湿によって変化し、脆弱化している。

鉄筋爆裂

一般にセメント硬化体は多孔質であるため、水を通さないコンクリートでもガスや水蒸気は通す。
アルカリ雰囲気のコンクリート躯体に埋設されている鉄筋でも、炭酸ガスの影響で徐々にコンクリートはアルカリを消失して中性化する。ここに水分が入り込めば鉄筋は錆びて膨張し、コンクリートを押し出して剥離剥落する。

 

ピンネット工法の理論

浮きのメカニズム

外壁の剥落を防ぐには、外壁の構造、仕上げ層の構成を把握し、剥離の原因となる以下の浮くメカニズムを見極める必要がある。
(1) 外壁剥離の原因は「浮きのメカニズム」が定説となっている。
コンクリートは、1964年(昭和39年)頃を境に現場プラント打設から工場プラントのミキサー車による生コンクリートに替わり、コンクリートの水セメント比(W/C)の増大でコンクリート表面に塗られたモルタルは、接着力に期待が持てなくなった。
(2) コンクリートにモルタルを塗る場合、モルタルの水分が急激にコンクリートへ取られて強度発現を阻害されないよう、左官バケなどによる水湿しに替わる吸水調整材が多用されている。吸水調整材に使われる樹脂が経年により加水分解を起こし、モルタルの剥離落下事故原因の一つと考えられる新聞報道がある。
(3) 外壁を構成するコンクリート、モルタル、タイルは、線膨張が異なるため構成材毎に伸率が異なる。伸率の異なる構成材によるデファレンシャルムーブメントが起これば、応力から解放され、脆弱な界面では浮きとなって現れる。
(4) モルタルは、冬期の低温乾燥と夏期の高温多湿では計算上0.63mm/m伸縮することとなり、年間を通して温湿度の変化で日々伸縮を繰り返している。
ひび割れが起こればモルタルとしての板状性が失われ、剥落することがある。

剥離剥落の解決策

外壁に起こる浮きやひび割れの問題点を解決するには、デファレンシャルムーブメントを考慮した対策をとることが唯一、外壁の剥落安全性を確保することができる。つまり、外壁の仕上げ層は動くことを認識しておかなければならない。

在来工法とは

在来工法の主たる考え方は、剥離した界面を樹脂とアンカーピンで接着させることにあり、浮きの激しい箇所では、より多くのピンニングを行うこととしている。
実験室など接着条件の良い環境下での試験では接着効果もあろうが、条件の異なる現場では、目視できない箇所へ手探りで樹脂注入を行っても接着するとはいい難い。
たとえ一時的に接着されたとしても、デファレンシャルムーブメントにより脆弱な界面は再び破断する。

ピンネット工法の理論

平成7年度建設技術評価制度(以下技術評価制度)公募課題「外壁複合改修構工法の開発」(建設省)資料には以下のことが明記されている。
・在来工法が主体となっていることに対し、本課題ではより確実性が高く、耐久性にも富み、科学的な理論に裏打ちされた外壁改修構工法を目指すとある。
・ピンとネットを複合的に用いることにより、ピンによる仕上げ層の剥落防止効果と、ネット繊維による改修層の補強効果により、確実に安全性を確保できる改修構工法の開発を目指すとある。複合改修層には温冷乾湿ムーブメントによって劣化が生じない耐久性が求められる。また安全性の面から新規仕上げにはタイル張りは適用外と明記されている。

既存塗膜の除去

外壁は雨水の浸入を防ぎ壁体内の湿分を屋外へ放出できることが、建物を長持ちさせる秘訣といわれている。透湿しづらい塗材を使用して湿分の放出が妨げられると、有機塗材が加水分解を起こして下地層を損ね、寒冷地では凍害となる。
屋上防水には水蒸気を放出する脱気筒を設けるが、外壁も屋上と同様に水蒸気を脱気させる工夫が重要となり、表面層は水蒸気を放出できる通気性を持ったものでなければならないと日本建築学会刊行「外壁改修工事の基本的な考え方(湿式編)」5)ピンネット工法(4)に書かれている。

ピンの役割

ピンニングの目的は既存モルタル層の剥落防止にあり、アンカーピンはコンクリート躯体だけでなくモルタル層に対しても定着力を持つピンであることが重要である。また、デファレンシャルムーブメントにより仕上げ層が伸縮を繰り返しているため、アンカーピンに柔軟性が必要であることが日本建築学会刊行「外壁改修工事の基本的な考え方(湿式編)」5)ピンネット工法(1)および(3)に書かれている。

ネットの役割

ピンネット工法ではモルタル層に板状性を付与するために、ネットとポリマーセメントモルタルを使用する。ネットはモルタルを補強するのに十分なヤング係数のあるものを使用することが必要であると日本建築学会刊行「外壁改修工事の基本的な考え方(湿式編)」5)ピンネット工法(2)に書かれている。またモルタルの補強を行う際には、既存塗膜の処理が重要である。

タケモルピンネット工法の理論

タケモルピンネット工法は、モルタルやタイルなどの仕上げ層は温冷乾湿によるデファレンシャルムーブメントの発生を前提として、つまり仕上げ層は動くことを基本に考案されたピンネット工法である。
(1)アンカーピンによる既存モルタル層の剥落防止
T字型アンカーピンをモルタル表面に刻設した一文字溝で定着させ、コンクリート躯体に25mm以上定着させている。このアンカーピンはデファレンシャルムーブメントによる面内変形にも対応したフレキシビリティを持ち、仕上げ層の動きに追従できるのでピン周辺での不具合が起きない。
アンカーピン頭部が既存モルタル中にあるので外部からの熱伝達を受けにくい。
タケモルピンネット工法では、既存塗膜を4箇所/m2除去し、透湿抵抗の緩和とネット層との接着力の向上を図っている。既存塗膜除去部にピンニングを行うので、ピンニング本数は4本/m2となる。

(2)ネット層による既存モルタル層への板状性付与
ネット:既存下地モルタルを補強するのに十分なヤング係数を持つタケモルネット(ガラス繊維製二軸ネット)を使用。タケモルネットは、SBR系ポリマーセメントモルタルの中に埋設されても、長期にわたり劣化のないことが実証されている。二軸ネットの形状により出隅でもネットを切断することなく施工は容易である。前述した評価制度の中でもネットは既存モルタルの補強を目的とし、タケモルネットは十分な補強性能を持っている。

ポリマーセメントモルタル:セメントフィラー、ポリマーセメントモルタル共、SBR系ポリマーを使用している。エチレン酢酸ビニル樹脂(EVA)やアクリル酸エステル樹脂(PAE)は水と結合すると加水分解を起こす性質があるが、SBR系ポリマーは、樹脂として加水分解を起こす構造を持たない。

ネット層:ネット層は既存モルタルと一体化させる必要がある。タケモルピンネット工法ではピンニング箇所の塗膜を部分除去し、1箇所当りの接着強度は3,000~4,000kgfとなる。またネット層の架橋効果により残存塗膜の不具合は発生しない。

浮き箇所への注入:タケモルピンネット工法の理論では、ネット貼りによって既存モルタル層に板状性を付与させるので、敢えて浮き部への注入は必要ない。たとえ下地浮き部へ注入を行ったとしても浮き界面を目視確認できないため、仮に脆弱化していた場合には接着が期待できず、また透湿抵抗も累加される。

(c) 2010 JAPINA 全日本外壁ピンネット工事業協同組合 All rights reserved.